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「復活してほしい」閉店した本屋が奇跡の再開 地元の本好きグループと住民の愛が動かす 新たな企画も人気

2024-11-05 HaiPress

<司書記者のミライの本棚>

全国で書店の閉店が相次ぐ中、地元の市民活動によって、一度閉店した書店が再オープンした例がある。苦境に立つ出版界で一筋の光明となりえるのか。狛江市にある啓文堂書店狛江店を取材した。

小田急線狛江駅に張られた再オープンを伝えるポスター。閉店中に地域住民から寄せられた願いが記されている=いずれも狛江市で

◆市内唯一の本屋、閉店から1年で再オープン

何人もの客が思い思いの時間を過ごしていた。小田急線狛江駅の高架下にある啓文堂書店の店内。本を購入した30代の女性は「一時はどうしようと思いましたが、こうやってまた近所で本が買えるので、すごく助かってます」と話した。

一度閉店したものの再オープンした啓文堂書店狛江店

実はこの書店、ショッピングモールの改装に伴い、昨年7月に一度閉店している。市内に唯一残っていた本屋の終了に住民は衝撃を受けたが、約1年後の今年6月に再オープンした。なぜ、営業を再開できたのか。そこには地元市民グループの活動が深くかかわっていた。

◆復活望む声が選書イベントでカタチに

「エキナカ本展」を開催した「タマガワ図書部」のメンバー=山本雅美さん提供

きっかけは選書イベントだった。閉店を惜しんだ本好きの市民グループ「タマガワ図書部」が今年1月、駅改修に伴う空きスペースで「エキナカ本展私が誰かに読んでほしい50冊」を企画。お薦めの本を展示して、自由に本が読める場所を作った。

すると、驚くことが起きた。多くの人が足を運び、本との時間をいとおしんだのだ。親子で来た人、受験の合間に寄った人、失恋の痛手を癒やす人もいた。その数1カ月で約7000人。

「想像以上に大勢の人が来てくれて、置いてあったノートに書き込みをしてくれたんです。『本屋さん、もう1回復活してほしい』『なくなって寂しいです』って。ここにはこんなに本が好きな人がいる。小田急さん、啓文堂さん、もう一度、どうですかと働きかけたんです」。タマガワ図書部代表の山本雅美さん(57)が経緯を説明した。

エキナカ本展に置かれたノートに残る来訪者の書き込み=山本雅美さん提供

◆「元の売れない状態に戻さないように」

啓文堂書店を運営する京王書籍販売は「前から再出店の話は出ていたのですが、合意には至らず…。何度もあきらめかけましたが、地元の方々の熱意が大きな後押しになりました」と話す。折しも、経済産業省が立ち上げた「書店振興プロジェクトチーム」が同店の取り組みに注目。紹介したことも追い風になった。

ただ、全国を見ると、書店を巡る環境は依然として厳しい。出版文化産業振興財団の調査によれば、全国の市町村のうち、27.9%(8月現在)の地域で書店がゼロになっている。京王書籍販売によると、再出店後の経営は「順調」というが、山本さんは「むしろ、問題はここから。本屋が街に戻ってきたのはいいが、日常に溶け込むと、また元の売れない状態に戻ってしまう」と危惧する。

◆キーワードは「地域」と「本の仲間」

お薦め本を陳列する「ブック・アンド・ベンチ」について語る山本雅美さん

どうしたら、書店で本を買ってもらえるのか。ヒントになる取り組みがある。現在、同店にはタマガワ図書部の協力でお薦め本を陳列する「ブック・アンド・ベンチ」が設置されている。選者は何と地元の人々。カレー店の店主、銭湯の経営者らが独自の視点で選んだ、売れ筋とは異なる希少な”推し本”を、絶版など一部を除き、ここで購入できる仕組みになっている。

「本を見たことがきっかけになって、客がその選者のお店に行くかもしれない。そこで客同士で会話が生まれるかもしれない。そうやって本にかかわる地域の仲間を増やしていけば、本屋の在り方が変わってくると思うんです」と山本さん。

キーワードは「地域」と「本の仲間」。いかに地元を巻き込んでいけるかが、鍵になりそうだ。

店内にはお薦め本を募集するポスターが張られている

図書館司書の資格を持ち、毎月第2木曜に「旅をする本棚」を連載中の筆者が、出版不況を巡る新たな動きを随時リポートします。

◆文・谷野哲郎/写真・川上智世、谷野哲郎

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