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水辺に不法な「放置船」ズラ~リ…一体誰の?規制どうなってる? 全国5.6万隻、愛好家注目の珍しい船も

2024-07-23 HaiPress

全国の河川や港湾に放置されたプレジャーボートなどの小型船が思うように減っていない。国は2022年度までに「放置船ゼロ」目標を掲げたものの、いまだに5万隻以上が不法に係留されている。水辺の景観を損ね、自然災害で流されて被害を拡大させるリスクもはらむ放置船。不法係留の現場を歩きつつ、現状の課題と対策を考えた。(岸本拓也)

◆市川市の真間川下流域、約500メートルの間に50隻以上

真間川に不法係留された船。自家製の桟橋があちこちにある=千葉県市川市で

「もうずっと、こんな感じ。沈んでほったらかしのままのもあるし、持ち主が片付けてくれればありがたいけどねぇ」

東京新聞「こちら特報部」は7月中旬、放置船が問題となっているという千葉県市川市を流れる真間川の下流域を訪れた。両岸には、プレジャーボートや漁船がずらり。近くを散歩中の男性(76)に聞くと、あきれた様子でこう話した。

真間川に放置されたプレジャーボート。1隻は朽ちかけて川に沈みかけている=千葉県市川市で

船を数えてみると、約500メートルの間に50隻以上あった。明らかに使っていない古い船や、朽ち果てて川に沈没した船もちらほら。ひっくり返った船体の上で、水鳥が羽を休め、亀が日なたぼっこをしていた。

◆正規の保管施設の利用料を避けるため?近くて便利だから?

お手製と思われる桟橋に係留している手入れされた船もあるものの、真間川を管理する千葉県葛南土木事務所によると、これらはすべて許可を得ていない不法係留だという。担当者は「いつからあるのか記録がない」と話すが、グーグルマップの写真撮影履歴を見ると、少なくとも2009年11月には放置船があった。

真間川に半分沈んだ放置船

海事関係者によると、マリーナなどの正規の保管施設に空きがないことや、年間数十万〜数百万円の利用料を嫌気して、勝手に無許可の水域に係留し、その後持ち主が亡くなったりして放置船や沈船になるケースも目立つという。

現場で待っていると、1隻のプレジャーボートが川岸の桟橋に戻ってきた。乗っていたのは中年男性2人。声をかけると、マゴチ釣りの帰りだという。「ここは東京湾に近く便利」と話してくれたが、不法係留の認識について尋ねると、「今日たまたま船を借りただけだから分からない」と言葉を濁し、桟橋そばに止めてあった車で走り去った。

◆強制撤去は簡単にできるわけではなく

千葉県は条例を制定し、放置船対策に力を入れてきた。ただ、真間川は条例の重点地域や、河川法の放置禁止区域に指定されておらず、対応が手薄になっていたことは否めない。

50隻以上の放置船が並ぶ真間川。川岸には破損した船もあった=千葉県市川市で

同事務所は、今年から対応を強化し、3月に「船舶の係留禁止」と書かれた大きな看板を川岸に設置した。担当者は「7月に現地調査し、50隻の不法係留を確認した。船体番号から所有者が分かれば、移動や撤去をするように警告や指導を進める。最終的に行政代執行などで強制撤去することもあり得る」と話した。

ただ、強制撤去にもハードルはある。葛南港湾事務所は17年、海につながる日の出水路(千葉県船橋市)に不法係留されたプレジャーボート4隻を県条例に基づいて強制移動させたが、その後持ち主が引き取りに来ず、20年に廃棄した。

移動や廃棄に約600万円かかったが、持ち主の多くが不明で費用請求が進まず、今のところ回収できたのは約30万円にとどまる。担当者は「費用回収の問題もあるし、そもそも船の航行を阻害するなど、差し迫った危険性がなければ、強制撤去まで行うのは難しい」と打ち明けた。

◆旧日本海軍の「内火艇」か…月島川に浮かぶ

東京都中央区を流れる月島川も放置された船があふれる場所だ。そのうちの1隻の行方に艦船愛好家の注目が集まっている。

月島川に放置状態の旧日本海軍の内火艇とうわさされる船(中央)=東京都中央区で

「旧日本海軍の15メートル内火艇(エンジン式ボート)では」。月島橋のたもとに浮かぶ水色の廃船を巡って、船体の特徴からネット上では近年そんなうわさが駆け巡る。もともとは屋形船の浮桟橋として活用されていたが、コロナ禍で屋形船が廃業。現在は他の船数隻と共に、ほとんど管理されない状態になっている。

月島川に放置状態の旧日本海軍の内火艇とうわさされる船(中央)=東京都中央区で

内火艇か否かの真偽は定かではないが、このままでは朽ちて沈没船になる恐れもあり、愛好家から保存を望む声が上がる。中央区管理調整課の担当者は「機能喪失船(廃船)であり、自主撤去が基本。現在の所有者に撤去をお願いしている」と話すものの、今後の見通しは立っていない。

◆政府は2013年に放置船「ゼロ」の目標を立てたものの

小型船の放置は、全国的な問題だ。放置船から油などが漏れて水辺の環境を悪化させるだけでなく、船の航行を邪魔したり、津波や高潮などで流されて周辺に大きな被害を及ぼしかねない。2011年の東日本大震災では、放置船から漏れた燃料に火が付き、水上火災を引き起こした。

国は13年、大震災を教訓に22年度末までに全国で放置船を「ゼロ」にする目標を掲げた。強制撤去も視野に放置禁止区域を拡大すると同時に、保管場所を増やすなどの対策を進めた。放置船は減ったが、22年度の国の実態調査では、全国の港湾や漁港、河川の放置船は約5.6万隻に上り、ゼロには程遠い。

仕切り直しを迫られた国は今年3月、対策の方向性をまとめ、「地域にとって支障のある放置船」については33年度をめどにゼロにする新たな方針を掲げた。

◆「保管場所の確保」に義務化の動き

焦点の一つが、法律で保管場所の確保を義務化するか否かだった。小型船の場合、自動車の車庫証明のように具体的な保管場所を届ける義務はない。所有者のモラル任せの仕組みが放置船を生むとして、義務化を求める意見は根強い。

クレーンで撤去される持ち主不明の放置船=2016年、三重県志摩市で

全国最多の放置船がある広島県は23年4月から全てのプレジャーボートの所有者に保管場所の届け出を条例で義務付けた。県港湾振興課の吉牟田修課長は「放置船は公共水面を事実上私物化している。義務化は新たな放置船を生まない施策」と話し、訴える。「特定地域だけで義務化すると、他の地域に逃げる船も出る。一律の法規制が必要だ」

◆「船を保管できない地域が出る」と政府は一律義務化を見送り

しかし、今回の対策で国は義務化を見送った。国土交通省の担当者は「受け皿の係留施設が十分でなく、一律で義務化すると船を保管できない地域が出てくる」と説明。その上で、義務化していない地域に放置船が集中しないよう、自治体の枠を超えた広域的な対応が重要と言う。

放置船対策を協議する国の検討会の委員を務めた神奈川大の嘉藤亮教授(行政法)は「不法係留船の状況や、係留施設のキャパシティー、地理的な問題などを含め、地域ごとの差が大きい。まずは水域管理者たる各自治体が民間団体などと連携して地域の実情に沿った対策を進めることが基本」と語り、義務化については、広島などの先行例の行方を見極める必要があると説く。「成果が出てくるなら、他の自治体にも追随してもらうのが、地方分権のあり方としても望ましい」

放置船対策に詳しい日本マリーナ・ビーチ協会の木下明・調査研究部長は「一律の義務化や強制撤去には行政コストがかかる。港湾などで係留しても支障がない水域を開放し、船が不法係留されている場所も安全が確認できるなら、積極的に収容先に転換するといった、今使える空間を有効活用する取り組みも重要だ」と指摘する。

◆デスクメモ

台風で損傷した貨物船の行政代執行を以前取材した。解体先までの移動に耐えるため重油や海水を抜いて補修し3000万円余の代執行費がかかったが、外国の船主から回収もできないという話だった。「ゼロ」は遠い目標だろうが、新たな放置船を生まないための広島の施策に注目したい。(恭)

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